カフェ開業のコンセプトの決め方

「カフェのコンセプトは、どうやって決めればいいんでしょうか」
カフェ開業のご相談をいただく中で、いちばん多い質問です。
そして、いちばん後回しにされがちな質問でもあります。物件を探し、内装業者と打ち合わせ、メニューを考える——目に見える作業は次々に進むのに、コンセプトだけは「なんとなく、あたたかい雰囲気のお店」のまま開業日を迎えてしまう。実際、そういうお店をいくつも見てきました。
この記事では、コンセプトを構成する5つの要素と、それを決めるための4ステップを順番に説明します。最後に、そのまま書き込めるテンプレートも用意しました。私たち自身が松戸市新松戸で運営しているコワーキングスペース併設カフェ「Flat」のコンセプトが、実際にどう決まったのかも公開します。
なぜ、物件よりも先にコンセプトなのか
コンセプトは「決断の基準」になる
開業準備は、決断の連続です。
この物件でいいのか。椅子は座り心地重視か、回転率重視か。ランチをやるべきか。コーヒーは深煎りか浅煎りか。BGMは何をかけるか。SNSはどれをやるか。
ひとつひとつは小さな判断ですが、開業までに数百回訪れます。このとき判断の基準になるのがコンセプトです。基準がないと、そのつど「なんとなく良さそうな方」を選ぶことになり、結果として一貫性のない店ができあがります。
逆に、コンセプトが明確なら判断は速くなります。「うちは在宅ワークの人が長時間過ごす店だから、椅子は座り心地を優先する」と即決できる。この積み重ねが、最終的に「あの店らしさ」になります。
コンセプトがないまま開業すると何が起きるか
具体的には、次の3つが起きます。
お客様に説明できない。 「どんなお店なんですか?」は開業後に何百回と聞かれる質問です。ここで一言で答えられないと、口コミが広がりません。人は、他人に説明できる店しか紹介できないからです。
メニューが増え続ける。 軸がないと、売上が伸び悩んだときに「パスタも出してみよう」「モーニングも始めよう」と足し算をしてしまいます。オペレーションが複雑になり、原価管理も難しくなり、それでも売上は上がらない、という悪循環に入ります。
立地とちぐはぐになる。 これがいちばん取り返しがつきません。物件は契約したら簡単には変えられないからです。
カフェのコンセプトを構成する5つの要素
コンセプトを「なんとなくの雰囲気」で終わらせないために、5つの要素に分解します。この5つが埋まって、かつ互いに矛盾していなければ、それは使えるコンセプトです。
① 誰に — ペルソナ
「20〜40代の女性」ではまだ粗すぎます。実在しそうな1人まで絞り込んでください。
年齢、職業、住んでいる場所、平日と休日の過ごし方、何にお金を使い、何に困っているか。ここまで書くと、その人が来店する時間帯や、注文するもの、滞在時間まで想像がつくようになります。
「絞ると客層が狭くならないか」と心配される方が多いのですが、順序が逆です。1人に深く刺さる店は、その周辺の人にも届きます。全員に向けた店は、誰にも届きません。
② 何を — 提供価値
その人に、何を提供するのか。ここで「おいしいコーヒー」と書きたくなりますが、少し待ってください。おいしいコーヒーは、ほぼすべてのカフェが提供しています。差にならないものは提供価値になりません。
考えるべきは「その人が、わざわざ家でもコンビニでもなくこの店に来る理由」です。集中できる環境かもしれないし、店主と話せることかもしれない。何かを学べる場かもしれない。
③ どこで — 立地
②で決めた価値を求める人が、その場所にいるか。
駅前なのか住宅街なのか、オフィス街なのか。徒歩か車か。周辺に競合はあるか、あるとしたら何が違うのか。ペルソナと立地が噛み合っていないコンセプトは、書いた瞬間から破綻しています。
④ いくらで — 価格帯
客単価をいくらに置くか。そして、その単価で1日何人来れば経営が成り立つのか。
ここは唯一、数字で検算できる要素です。「客単価1,200円 × 1日40人 × 月25日 = 月商120万円」という具合に置いてみて、その人数が本当にその立地で見込めるのかを確認します。コンセプトが夢物語かどうかは、この掛け算で分かります。
⑤ どんな時間を — 過ごし方
滞在時間はどれくらいを想定するか。長居してほしいのか、回転させたいのか。
これが決まると、席の配置、電源とWi-Fiの有無、BGMの音量、テーブルの高さまで一気に決まります。ここを曖昧にしたまま内装を発注すると、後から「長居してほしいのに椅子が固い」といったズレが出ます。
コンセプトを決める4つのステップ
STEP1|なぜ自分がカフェをやりたいのかを言葉にする
いきなり市場調査から始めないでください。最初にやるべきは、自分の動機を掘ることです。
「なぜカフェを始めたのか」は、開業後に本当に何百回、何千回と聞かれます。お客様に、取材で、取引先に、スタッフの面接で。ここに自分の言葉がないと、そのたびに借り物の答えを返すことになります。
書き出すときは、きれいにまとめようとしないでください。「地元に友達がいない」「前職が嫌だった」でもかまいません。本音のほうが、後で強い言葉になります。
STEP2|ペルソナを1人に絞る
STEP1で出た動機と、出店を考えている地域を重ねて、「その場所にいて、自分が力になれる人」を1人に絞ります。
このとき、実際にその地域を歩いてください。平日の朝、昼、夕方。休日の午後。どんな人が歩いているか、どんな店に入っているか、何時に人通りが増えるか。机の上のデータだけでペルソナを作ると、たいてい現実とズレます。
STEP3|5つの要素を埋め、矛盾を消す
前章の5要素を、実際に書き出します。
全部埋めたら、要素どうしを突き合わせて矛盾を探してください。これがこのステップの本番です。
- 長居してほしい(⑤)のに、客単価1,500円で1日60人(④)を見込んでいる → 席数と回転が計算に合っていない
- 在宅ワーカーが対象(①)なのに、平日昼に人がいない住宅街(③) → そもそも来店できない
- 「静かに集中できる場所」(②)なのに、ベビーカーで来やすい店(①)を目指している → 両立が難しい
矛盾が見つかったら、どちらかを捨てます。捨てる作業がコンセプト設計の中身です。足すのは誰でもできます。
STEP4|一文にまとめ、自分が腹落ちするまで削る
最後に、一文にまとめます。
判断の基準は「自信を持ってお客様に言えるか」です。人に説明していて、自分で少しでも歯切れが悪くなる部分があれば、そこはまだ腹落ちしていない証拠です。納得がいくまで書き直してください。
記入テンプレート
そのまま書き込んで使ってください。
| 項目 | 記入欄 |
|---|---|
| なぜやるのか(動機) | |
| ① 誰に(年齢・職業・居住地・平日の過ごし方・困っていること) | |
| ② 何を(家でもコンビニでもなく、この店に来る理由) | |
| ③ どこで(エリア・駅距離・人通り・競合と何が違うか) | |
| ④ いくらで(客単価 / 1日◯人 / 想定月商) | |
| ⑤ どんな時間を(滞在時間・席数・電源とWi-Fi・BGM) | |
| 矛盾チェック(要素どうしで噛み合わない点) | |
| 一文でいうと |
実例:コワーキング併設カフェ「Flat」のコンセプトはこう決まった
一般論だけでは分かりにくいと思うので、私たち自身の例を公開します。
出発点は、夫婦それぞれの願いだった
Flatは、私の「いつか起業したい、コワーキングスペースをつくりたい」という思いと、妻の「飲食店のお店を持ちたい」という夢が重なって生まれました。
私は学生の頃から起業を考えていましたが、具体的なビジョンを描けないまま社会人になり、システム会社のSE、不動産会社の社内SE、オフィスビル管理、法人営業を経験しました。転機はコロナ禍のリモートワークです。オンラインでやりとりはできる。でも、どこか孤独だ——そう感じたときに、この孤独はいずれ社会の問題になると思いました。
家の近くに、アットホームなコワーキングスペースがあればいい。そう考えて事業プランを作り始め、妻に相談したところ、妻もJALの客室乗務員やレストランで培った接客を活かせる自分の店を持ちたいと考えていた。それなら、カフェを併設したコワーキングスペースをつくろう。そこが出発点でした。
ペルソナ
「松戸市在住の30代で、都内に会社があり、在宅ワークをしている人」
コロナ禍で在宅勤務になったものの、家では集中できない。かといって都内のオフィスまでは行きたくない。そういう人が、確かに近所にいました。
5つの要素はこうなりました
① 誰に:上記のペルソナ
② 何を:家でも職場でもない第三の居場所。「行けば誰かに会える」「気軽にコミュニケーションができる」場所
③ どこで:松戸市新松戸。都内通勤圏の住宅地で、平日日中に在宅ワーカーが確実にいるエリア
④ いくらで:カフェ利用とコワーキング利用という、性質の違う2つの収益源を組み合わせる(カフェは1,000円、コワーキングスペースは月額会員というサブスクの固定収入を得る)
⑤ どんな時間を:昼はコワーキングで集中、カフェエリアで雑談、夜はバーで一杯。同じ場所が時間帯で役割を変える
そのうえで、より具体的なコンセプトとして次の4つを定めました。
- 地域住民のコミュニティ・ハブとしての場の提供
- 誰もが快適に過ごせる環境(家でも職場でもない第三の居場所)の提供
- コワーキングスペースで仕事や勉強に集中し、カフェエリアで雑談やリラックスし、バーでお酒も楽しめる
- 夫婦で運営する、皆が来て安心する場所
結果どうなったか
正直に書きます。コンセプトが明確でも、すぐには軌道に乗りませんでした。
コロナ禍での開業だったこともあり、1年目は集客に苦戦しました。2年目でようやく軌道に乗り始め、3年目でやっと安定した収益を上げられるようになりました。その間ずっと支えになったのが、このコンセプトです。苦しいときに「うちは何屋なのか」がぶれなかったから、続けられました。
いまでは「お客様同士がこんなに和気藹々とおしゃべりを楽しんでいるカフェは見たことがないです」と言っていただけるようになりました。開業から6年目に入っています。
コンセプトは魔法ではありません。ただ、苦しい時期に何を我慢して何を守るかを教えてくれるものではあります。
よくある失敗3パターン
① 全部盛りにしてしまう
「静かに作業もできて、子連れでも来やすくて、夜はお酒も飲めて、こだわりのコーヒーも出す店」。
気持ちは分かります。どれも良いことだからです。ただ、これらは同じ空間では両立しません。子どもの声が響く店では作業に集中できず、作業向けの静かな店には子連れの方は入りづらい。全員を満足させようとした店は、結局どの層からも「自分の店ではない」と思われます。
Flatが時間帯で役割を変えているのは、空間ではなく時間で分けているからです。同時に成立させているわけではありません。
② 自分の好みだけで決めてしまう
「自分がこういうカフェに行きたいから、こういう店を作る」。
出発点としては正しいのですが、そこで止まるのが危険です。自分と同じ好みの人が、その立地に何人いるのか。その人たちは月に何回来て、いくら使うのか。ここを確認しないまま進むと、「自分にとって理想の店で、誰も来ない店」ができあがります。
動機は自分の中から、検証は外の現実から。この順番を守ってください。
③ 立地とコンセプトが噛み合っていない
いちばん多く、いちばん取り返しがつかない失敗です。
物件は先に決まってしまうことが多い。良い物件が出たから押さえた、家賃が安かったから決めた。そのあとでコンセプトを考えると、どうしても物件に合わせた無理が出ます。
順番としては、コンセプトが先、物件が後です。少なくとも、物件を契約する前にコンセプトの叩き台は持っていてください。「この物件は、うちのコンセプトに合うか」と問える状態で内見に行くのと、そうでないのとでは、判断の精度がまったく違います。
コンセプトが決まったら、次にやること
コンセプトはゴールではなく、ここからすべての判断の土台になります。次に進むのは、
- 物件・立地の選定:コンセプトに合う場所か、内見時に確認する
- 資金計画:④で置いた客単価と客数で、本当に成り立つかを数字で検証する
- メニュー設計:②の提供価値から逆算して決める
- 開業前の集客準備:オープン前から始めるのが鉄則です(→ カフェを軌道に乗せるまで、どんな工夫をして集客をしたか?)
コンセプトを一緒に固めませんか
ここまで読んで、「書けそうだけど、これで合っているか分からない」と感じた方が多いと思います。コンセプトは、自分ひとりで考えると必ずどこかで甘くなります。矛盾に自分で気づくのが難しいからです。
グロードジャパンでは、コワーキング併設カフェ「Flat」を6年運営してきた経験と、これまでの開業支援の実績をもとに、カフェ開業の伴走支援を行っています。コンセプト設計から、商圏分析、物件契約、メニュー構成、開業後の運営まで、6ヶ月間ご一緒します。
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コンセプト設計とブランドストーリーの作り方については、拙著『カフェだけじゃ生き残れない!~夫婦で作る、カフェ×コワーキングスペースの地域密着拠点』でさらに詳しく書いています。あわせてご覧ください。
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